火の薔薇 バルセロナの悪魔 その1 ティビダボ
9/7/2026
グラシアがバルセロナの北隣にある街で、もともとは別の街だったが、いまはバルセロナの一部で「山の手」ということになっているのは知っている人も多い。
わたしはグラシアというカタロニア主義というか、反スペインの気風があふれたこの街が好きで、結局、卒業時、大学にいたときには思いもしなかった財産を手にすると、グラシアの丘の上に、小さなピソを買うことになった。
地下鉄のJoanicの駅でおりて、長いゆるやかな坂をのぼってゆくと、朝には蜂蜜をたっぷり塗ったクロワッサンと、二個の小さなクロケタス、それにおおぶりのカップに入ったカフェ・コン・レチェを出してくれるベーカリーがあって、そこを過ぎた直ぐを右に曲がった急坂の右側に、わたしたちのアパートがあった。
五階建ての建物の五階で、後では夏の暑さのせいで、おおきなテラスのある家にも、最上階の家にも地元の人は住みたがらないと判ったおおきなおおきなテラスがあるペントハウスを購入したのだった。
この尋常でないくらい古いアパートを有り金をはたいて買ってしまったので、新婚のわたしとケイトは、文無しになってしまったが、正面には、少し遠くに建築中で、三基のクレーンに取り巻かれたサグラダファミリアが見えて、その向こうには地中海が見えている、このテラスで、Cavaを飲みながら、すっかり大喜びで、毎日、ふたりで飲んだくれては、中庭に面した隣のアパートのひとびとと一緒に、ミゲル・ボセの歌を一緒に歌ったりして、楽しい無為の毎日を過ごしていた。
このテラスの右手には、ずいぶん背が高くて目立つ、携帯電話用だろうか、おおきな
通信塔が立っていて、そのまた右側には教会があって、無知なカップルのことで、初めは知らなかったが、これが有名なTemple Expiatori del Sagrat Cor(贖罪教会)で、この直線が際立つ彫刻群で有名な教会が建っている丘が、ティビダボ(Tibidabo)、すなわち、この物語のすべてが起因する山なのだが、もちろん、ピソを買った当初は、新婚生活に夢中で、そんなことを調べもしない。


