【Archive】通りと番地
29/3/2020
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名前がついていない通りがいくつもあるのに、坂にはみんな名前が付いているなんて、なんてヘンな町だろう、と、よく考えた。
暗闇坂
狸坂
仙台坂
南部坂
家から、あちこちに散歩するのに、よくモニに得意になって説明したものだった。
行人坂
権之助坂
魚藍坂
幽霊坂
日本人の友達に西洋では通りには全部なまえがついている、と述べると、疑わしそうな顔で、
「そんなことがありうるんですか?」という。
怪訝そうな顔です。
たった20メートルしかない通りでも、もちろん名前がある。
Victoria Ave
Peach Parade
Adison Place
Johnson St
片側には奇数の番地で、もう片方には偶数の番地がついている。
「ひゃあ、それは合理的ですね」
というが、合理的もなにも、そうでなければ、どうやって家を特定する事が出来るのか。
坂はシステムではない、ところが面白い。
別に幽霊坂18番、という住所があるわけではないようでした。
ただ名前がついていて、ゆるやかな坂道に情緒が与えられている。
坂から坂へ。
南部坂をのぼって、暗闇坂をおりて、鳥居坂をのぼって、またあのレストランへ行く。
東京に住むためには、西洋的な合理を、いったん捨てる覚悟がいる。
2
グラシアの、名前がない坂をのぼりながら、東京のことを考えていた。
誰かに軽蔑されても仕方がない言い方をすると、日本語は、ガールフレンドの母語ではないのに、おぼえた、ただひとつの言語だった。
自分にとっては、それは初めから亡霊たちの言葉で、
筒井筒、井筒にかけし わが恋は


